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筑紫哲也氏とタバコ(2008年12月)


最新タバコ事情71

 筑紫哲也氏が73歳で逝去された。肺ガンとの闘病1年半の早逝である。
 多くのジャーナリストの中でも、ニュース番組を中心に独自の主張を貫いた稀有な存在であった。それにしても70歳をやっと超える生涯は、決して普通ではない。彼は自らが認める筋金入りのスモーカーであった。ちょうど20年前、ニューヨークで暮らした彼は、当時の米国がなぜドラスティックにタバコ抑制に向かったかを理解できなかったようで「この厳しい喫煙御禁令は、タバコのおいしさを日々知らせてくれる効用がある。我慢を重ねた上の一服の楽しさは、自由に吸える日本で味わえるものではない」と書いている。このタバコに対する認識はそれから20年、禁煙社会に向かう世界のうねりによっても殆ど変えられることはなかったようだ。
 タバコは多くのドラッグの中で、これをビジネスに用いるに、他の植物アルカロイドにないいくつかの利点があった。幻覚作用を持たず、仕事をやりながらでも使用でき、喫煙者になったからといってすぐに健康を損ねたり死ぬことはない。そうして飛びきり強い依存性(やめにくさ)を併せ持っていた。これらの特性から、おそらくアルコールに次いで人類に最も広く用いられたドラッグとなった。しかし、これが1960年代を境に大きく凋落していく。他のドラッグにはない致命的な欠陥が明らかになったのである。他の薬物にはない「ガンを引き起こす」という欠点が広く世界の知られるところとなった。
 国家のありようを常に独自の視点で鋭く抉っていた筑紫氏が、国のダーティビジネスの典型的な犠牲者となったことはいささか皮肉に感じられる。メディアがその想いを取り上げることはないが、奥様がひつぎにタバコを入れるのを拒否なさったことは、私にとって大きな救いであった。

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