子供たちにタバコの真実を(内容立ち読み)

内容立ち読み

本書の中身の一部です。

3.タバコを吸うと何が起こるか?


(15)喉頭がんの写真
 喉ぼとけの中には、声を出すための「声帯」というものがあります。 
 一日に二十本もタバコを吸う人は、ここを四十七種類もの発がん物質を含んだ煙が、毎日毎日百回以上も、行ったり来たりしていることになります。タバコのヤニ(タール)の中に入っている四十七種類もの毒(発がん物質)が、こういうすみっこにくっつくのです。  
 この人の場合は、白く見える三ミリか四ミリぐらいががんなんだけれど、喉の軟骨を食いやぶって外側へ飛び出し、甲状腺やリンパ腺や食道のほうにまで回って、かわいそうに喉ぼとけの上から全部切りとらなくてはならなくなってしまったのです。喉に出っ張りも何もないでしょ。声も出せないんだよ。においも分からない。肺の出口のところに穴を空けて息をしなければならないんです。
 「喉頭がん」というのだけれど、こういった病気にかかった人をあまり見たことがないと思います。でも、大学病院や専門の病院に行くと珍しい病気ではありません。 
 喉頭がんは、タバコを吸わない人はかからないといってもいい。ビートルズのジョージ・ハリソンや、日本では座頭市で有名な勝新太郎がこの病気で亡くなったけれど、タバコを吸う人だけがかかるんだ。 
 私たちと一緒にときどき講演にきてくれるおじいちゃんがいます。その人も喉を手術で切り取ってしまい、声もにおいもない生活になってしまいました。でも、機械を使って、生徒たちに話してくれます。「私も、こんな恐ろしい病気があると知っていたら、絶対にタバコなんか吸わなかった」と。 
 タバコを吸うと喉のがんにかかりますって、だれも教えてくれないもの。喉を手術してからは、ほとんど外に出なくなってしまったそうです。もう二十年も、ほとんど家でテレビを見て過ごしていたそうです。声を失うということは大変なことなんだね。


(16)きれいな肺の写真
 これは君たちみたいにきれいな肺です。ピンク色のマシュマロみたいなふかふかした臓器です。


(17)汚れた肺の写真1
 これはタバコ吸いの人の汚い肺です。黒々とタールに染め上げられているだけでなく、肺が腫れてしまいます。伸び縮みが悪くなるから、大きく見えても働きは悪くなっています。これがもう少しひどくなるとこうなります。


(18)肺の写真2
 (会場、どよめき)これはCOPD(慢性閉塞性呼吸不全)という状態になった肺です。
 タバコのヤニで、肺胞という大切な組織がやられています。肺胞が溶けて破れて、無意味な、働きのないただの空気の袋だらけになり、痰も多くなって、うまく酸素と炭酸ガスの交換ができなくなっていきます。
 これはいま、女の人にも増えているのです。四十歳ぐらいでこの病気にかかる人が急増し、いま日本では、なり始めぐらいの人まで入れると五百三十万人の患者さんがいると言われています。 
 いままでは「大人のゼンソク」と間違われていました。症状はゼンソクとほとんど同じでヒーヒー、ヒューヒューと呼吸が苦しくなるのだけれど、長い間のタバコで肺がとけちゃったというだけの話です。この病気の怖いのは癒(なお)らないということ。一生懸命治療をしても、確実に悪くなっていくんです。(マクロファージというタールなどの異物を取り除く役目の細胞が、自分の肺胞壁まで蛋白分解酵素で溶かしてしまうためだと考えられています)


(19)肺がんのレントゲン写真1
 これは君たちのお父さんよりかなり年上の人です。セブンスターというタバコをずっと吸っていましたが、心配だったのか毎年肺がん検診を欠かさず受け、痰の検査やレントゲンの検査をしていました。あるとき「先生、影が出た」と大あわてで、通知の手紙を持って病院にきました。咳が出るわけでもないし、特に何の症状もないんだよ。だけれども、前の年にはなかった影が写っていてがんだと分かったんです。
 でも、早く見つかったからよかったなんていえません。肺がんというのはすごく性質が悪くて、手術してもなかなか助からないんだ。手術をやってもやらなくても、五年間生きられる人が十人に一人か二人だよ。


(20)肺の写真1、胸を開いたところ
 三十年ぐらいセブンスターというタバコを吸っていた人なんだけど、この肺は点々と黒く汚れていますね。ついている血液を洗ってひっくり返してみると……


(21)肺の写真2、がんの部分を引き出したところ
 肉色の部分が見えますね。このように、黒いところからがんができたようです。本体はその下にもぐっていて、三センチ弱ぐらいのかたまりになっています。手術は順調で、リンパ節まできれいに取れたんだ。


(22)肺の写真3、切り取ったもの
 これは切り取ったがんの部分を縦割りにした写真です。やはり黒々としたところからがんができて、育っている様子が分かると思います。
 小さいから助かるかなあと思っていたら、二年ちょっとで「左の目が外側半分だけ見えない」ということで外来にきました。これはまずいということで、MRIやCTの検査をしたら、肺のがんが、脳に親指の頭ぐらいの大きさで四つ飛んでいました。転移といって、がんが脳に広がって、それが脳に腫瘍(しゅよう)を作り、左の視神経をおしつぶしていて、半分だけ目が見えなくなっていました。ガンマナイフなど最新の治療をしましたが、「頭が痛い、頭が痛い」と言って、二年と八ヶ月ぐらいで亡くなりました。


(23)肺がんのレントゲン写真2
 これはお年寄りの患者さんでした。ハイライトという水色の箱のタバコを長い間吸い続けていた人です。
 この人は、痰に血が混じったということで驚いて病院に見えました。ティッシュに痰を採って持ってきてくれましたが、汚い痰にきれいな真っ赤な血が、スーっと二筋ついていました。見ただけで「あっ、これは」と思い、すぐレントゲンを撮りましたが、もう肺の左上は真っ白でした。
 「手術をしてもどうかなあ」と思いましたが、本人の強い希望もあったので切除しました。


(24)手術の傷跡
 手術といっても簡単なものではないんだよ。お乳の下から脇の下をざーっと切って、背中のほうまで切るのだから。


(25)肺手術の写真
 すごいでしょう。普通だったら、肺というものはピンク色のふかふかしているものなんだけれど、これはタールの漬物になったように黒光りしています。がんの部分は切り離して裏側になってしまっているから見えないけれど、残りの、この肺の状態をよく見ておいてください。君たちもがんばって中学ぐらいからタバコを吸えば、これぐらい立派な肺になれるかもしれないな(笑)。

 さて、いくつかタバコ吸いのよごれた肺を見てもらったんだけれど、年を取れば、だれでも少しずつ肺は汚れていくものだと思っていませんか。皆さんだって、ほこりっぽいところで活動したり、自転車に乗っていれば排気ガスや煤煙を吸い込んでしまうでしょう。だからといって、肺というのはだんだん汚くなっていくわけではありません。ここがちょっと間違いやすいところです。

(26)きれいな肺の写真 
 これは五十歳のタバコを吸わない女性の肺だけど、別に汚れてないよね。


(27)黒くて汚い肺の写真
 こういうふうに黒くなるのは、タバコ吸いだけなんだよ。「先生は一番汚いのを持ってきたのだろう」と思うだろうけれど、そうじゃないんだ。こうなるには理由があるんだ。


(28)線毛の写真
 肺の細い気管支の中には、こういう線毛というものがあって、中をきれいにする働き(異物を肺の外へ外へと、エスカレーターのように痰と一緒に送り出す役割)をしているんだよ。これがタバコを吸うと……


(29)線毛が細くなり抜けている写真
 線毛が抜けてなくなってしまう。するとごみや埃(ほこり)を外に送り出そうとする働きが悪くなり、汚いものが肺の中にいっぱい残ってしまうんだ。


(30)肺の異物排出機能曲線のグラフ
 これは、タバコを吸う人と吸わない人で行った、異物を排出する機能を比べる実験の結果です。
 スパイクタイヤが削り取ったアスファルト道路の粉じんを持ってきて、タバコを吸う人と吸わない人の両方の人にふーっと吸い込んでもらい、粉塵に含まれる金属に磁性を持たせて標識にして、体の外から、それぞれの人の排出機能を比べたのです。
 タバコを吸わない人の肺は、二、三ヶ月でさーっときれいになったのに、タバコを吸っている人は一年たってもダメでした。五割も六割も残ってしまったのです。肺がバカになってしまったといってもよいでしょう。私は、タバコの本当に恐いところは、この点にあるのではないかと考えています。


(31)禁煙を勧める切手

4.タバコで口の中に何が起こるか?

 さて、ここまでは喉から下、医科の話をしてきましたが、タバコの煙が一番最初に入るところはどこだろう。そうだね、口の中です。私も「タバコを吸う人は口のにおいが臭くて嫌だなあ」ぐらいにしか考えていなかったのですが、とてもそんなことではすまないことが分かってきました。歯科の先生方がいろいろ研究して、タバコが口の中にいったいどんな悪いことをするのか詳しく調べてくれました。
 今日は歯医者さんの渡辺先生からいろいろお話を聞いてみましょう。

続きは本書で。

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