タバコってなんだ?〜真実を知ろう〜


監修/無煙世代を育てる会代表 平間病院院長 平間敬文
マンガ/富士山 みえる


『タバコってなんだ?』〜真実を知ろう〜(2005年12月)
保健学習マンガシリーズ もっと知ろうからだのこと(2)、小学校向け

株式会社インタープレス

ISBN 4-902340-17-8 C6037
A5判 40頁 本体500円

(←クリックで拡大)

タバコってなんだ? 〜真実を知ろう〜

マンガは抜粋です。詳細は本書をごらんください。

保健室の廊下で

6年生の女の子、七海(ななみ)が保健室の廊下のポスターを心配そうに見ています。昨日の夜、宿題のことでパパの部屋に入ると、あたりはタバコの煙でいっぱいでした。

「やだっ、すごい煙!! うげえっ、ゲホゲホ」
「なんだ?、七海」
「あのね、学校でね、『あなたの家族のストレス解消法は?』って宿題が出たんだけど、パパはどうしてるのかなって?」
「仕事で疲れると気分転換によく吸うから、パパのストレス解消法はタバコになっちゃうなー」


「ええっ? パパ一日中タバコ吸ってるけど、それってストレスのせいだったの?」
「毎日忙しいからねー」
「でも毎日こんなに吸ってたら体にわるいんじゃない? 私、パパが毎日こんなにタバコを吸ってたら肺がんになって死んじゃいそうで怖いよ! もうちょっと減らせないの?」
「ははは…七海は大げさだなあ、大人なんだから平気だって」

でも七海はパパがあんなに吸ってて本当に平気なのかが心配でした。
一度だけタバコを吸ったことがあるという健太と、「なんで大人はあんなもの吸うんだろう?」と言っていると、突然…
「それはタバコも麻薬と同じ『薬物』だからだよ!」
「きゃーっ!」「おじさん、だれ?」
「今度この小学校で禁煙教育の講演会をする平間敬文です!」

タバコは薬物


「先生!!パパがヘビースモーカーで心配なんです!」
「よし!タバコの真実について教えよう!」

タバコというのは、タバコの葉を蒸し焼きにして出た煙を吸います。この煙の中に「ニコチン」という薬が入っているんだ。


この「ニコチン」という薬が、タバコをやめられなくなる原因なんだよ。
たった一本のタバコで人生が変わってしまうんだ。こんなふうにね。

「ええ〜っ?たったの一本で人生が変わる?大げさだなー」

タバコはね、『ちょっと試しに一本』がきかない中毒になりやすい薬物なんだ。
でもお父さんたちは、それを知らないで手をつけてしまったんだよ。

ではなんで中毒になってしまうか、考えてみようか。
まず『ニコチン中毒』というのは、「タバコを吸わずにはいられない」状態のことだよ。

タバコに脳が支配されてしまうから、吸わないでいるとイライラしたり、集中できなくて本人はつらいんだ。
それでがまんができなくなってタバコを吸ってしまうんだよ。

「たとえばきみたちだって、おなかがすけばごはんが食べたくなるよね?」
「当然ですよ!」
「で、おなかがふくれれば満足するよね?」
「ハイ」

 タバコはね、このおなかのすく間が短いと考えればいいんだ。一本吸って満足しても、しばらくするとまた吸いたくなっちゃう。どんなに吸っても吸い足りることはないんだ。
 たった一本のタバコに、たくさんの毒物がふくまれているんだよ。これを一日20回くらい吸うと考えてごらん。アッという間にたくさんの毒物をとることになるよね!

タバコは毒のデパート

タバコには4000種類もの化学物質がふくまれていて、そのうちの200種類はがんと関係のある有害物質とされています。なかでも、ニコチン、一酸化炭素、タールは、タバコの三大毒といわれています。

  • ニコチン
     タバコがやめられなくなるのは、ニコチンに強い依存性を起こさせる麻薬のような作用があるから。  でも、ニコチンはそれ以外にも強い毒性を持っていて、赤ちゃんや小さな子供の場合、まちがってタバコ1本を食べてしまうと、死んでしまうこともあるくらいなんだ。
  • 一酸化炭素
     血液の中には、ヘモグロビンという物質があり、肺から取り入れた酸素を全身に運ぶはたらきをしている。このはたらきをじゃまするのが一酸化炭素。  だからタバコを吸うと、体中が酸素不足になってしまうんだ。
  • タール
     タバコを吸うとヤニで歯がまっ黒になる。そのヤニと呼ばれているものがタールの正体。1年間で紙コップ1杯になる。肺がまっ黒になるのもタールのしわざ。  それにタールには発がん物質がたくさんふくまれていて、細胞の中のDNAを傷つけてしまうんだよ。

「先生!いったいこの毒物ってどんな悪さをするの?」
「ウン、次はタバコがひき起こす病気を見てみようか」


よく言われるのは「肺がん」だけど、実はタバコを吸う人は体中にがんができやすくなるんだよ。
「えっ!?煙は肺に入っていくんじゃないの?」

タバコの毒は肺にくっついてから血液やリンパ液にとけ込んで全身に流れていくんだ!
タバコを吸う人は汗にまでタールの成分がしみ出すよ。

肺がんだけじゃない!「タバコを吸わない人より多くなるがん死」
  • 口腔がん 4.6倍
  • 咽頭がん 32.5倍
  • 骨のがん 3.5倍
  • 肺がん 4.5倍
  • 胃がん 1.5倍
  • 肝臓がん 1.7倍
  • すい臓がん 1.5倍
  • ぼうこうがん 1.7倍

でね、先生は、タバコの害は大人よりもキミ達 子どもの方がずっと大きい!! ということを今度の講演で知ってほしいんだ

タバコはね、幼稚園ぐらいの子でもニコチン中毒にかかってしまうんだよ!
そしてアッという間にタバコなしではいられなくなる。
それぐらい簡単に中毒になってしまう薬物なんだ!!


成長期は次々と新しい細胞が増えて大きく育っている時期でしょう。
その細胞の中には染色体という大切な情報が入っている。
でもタバコの毒が体の中に入ると、この染色体に傷がついてしまって、ちゃんと成長することができなくなるんだ。

思春期にタバコを吸うとね、こんなに影響が報告されているんだ。
  1. 持久力がなくなる
  2. 背が伸びなくなる(成長期にタバコを吸うと15歳以上で6〜8cm違ってくる)
  3. 最近では、女の子の場合、肺の成長が止まってしまうといわれている
子どものタバコが問題なのは、すぐに中毒になり、小さいころからたくさんタバコの毒をとり続けること!
傷ついたDNA(染色体)はがん細胞になりやすいこと!

「それって、子どもが吸うともっとがんにかかるリスクが高くなるってこと?」
「そう! たとえ量が少なくても若いときから吸うとこんなに肺がんの危険率が高くなるんだ」

  • 大人 危険率4倍(成人(20歳)になってから吸っている人)
  • 子ども 危険率14倍(14歳以下から吸っている人)

女性と子どもへのおそろしい影響

  • タバコを吸うと、赤ちゃんができにくくなる
     一日に20本以上吸う人では、赤ちゃんができない人が3倍にもなるんだよ。
  • 妊娠中のお母さんがタバコを吸うと、おなかの赤ちゃんがちゃんと育たない
     お母さんのおなかの中で赤ちゃんが酸素不足や栄養不足になってしまうんだよ。だから生まれたときに小さいだけでなく、その後の発育も遅くなることが多いんだ。
  • お母さんのタバコと先天異常の発生率
     先天異常といって、生まれつき障害のある赤ちゃんは、タバコを吸わないお母さんにくらべて、ヘビースモーカーのお母さんからは倍くらいの確率で生まれます。
  • タバコを吸う子どもたちの家庭での母親の喫煙率は2倍以上!
     親(特にお母さん)がタバコを吸う場合、その子どもがタバコを吸う確率が高いという調査結果があります。タバコが身近にあって、脳がニコチンに慣れてしまうから、ニコチンの依存症になりやすくなるんだよ。
  • タバコで肌も5歳早く年をとる
     タバコを吸う人は、肌のシミやくすみの原因「メラニン」の増え方が、5歳以上も早いんだよ。
(それぞれグラフは本書をご覧ください)

七海は「私は絶対にタバコなんて吸わない!!」と思いました。ところが…

「吸わない人にも落とし穴があるんだよ」
「タバコを吸わないのにタバコの害があるの?」
「キミのお父さんはヘビースモーカーと言ってたでしょう? それがくせ者なんだ!!」

タバコの煙は二種類あって、吸う煙は主流煙、火から立ち上がる煙を副流煙といいます。


タバコを吸わなくても、タバコの煙が充満した部屋や、タバコを吸う人の横にいると、知らないうちにタバコの煙を吸っていることになるんだ。
一日に10本吸う人の横にいると、一本分のタバコを吸ったことになるんだよ。

「え〜!?そんなに? ひどいよ〜!! 私タバコなんて絶対吸いたくないのに吸ってたことになるのね!」

「しかも驚くなかれ! 特に副流煙は害が大きいんだよ」
「え〜!? 直接吸っていないのに?」
「副流煙はフィルターを通した煙じゃないから、そのぶん有害物質がたくさん入っている。家族のうちの誰かがタバコを吸っていると、小さな子はかぜをひきやすくなったり、ぜんそくや肺炎にもかかりやすい。おまけにニコチンのせいで子どもの歯ぐきが黒ずむことが多いんだ」

タバコとがん


ところで日本では今、がんで死ぬ人が増えているのが問題になっているんだけど、がんは世界中で増えていると思う?


環境汚染とかあるし、増えてきてるんじゃないかな…

ブブー!残念でした。


日本では増え続けているがんが、逆にアメリカやヨーロッパの先進国では減ってきているんだよ。なぜだと思う?

「もしかして、それもタバコと関係あるの?」
「ピンポーン!その通り!」

なんと今はアメリカやヨーロッパなどの先進国ではタバコを吸う人が減ってきているんだ!
今じゃアメリカではタバコを吸う人は5人に1人!
だからタバコは売れなくなっちゃった。
がんなどタバコを吸うことで起こる病気の増減は、タバコの販売数と20年遅れて連動しているんだ。

タバコ消費とタバコ病による死亡者数(グラフは本書をごらんください)
  • タバコ対策の進んだ国
    アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデン、フィンランド、オーストリア
  • タバコ対策のおくれている国
    日本、スペイン、ギリシャ
先進国では喫煙による健康被害をみんなが知っているから、吸う人が減っているんだよ。
逆に、プカプカ吸う人は軽べつされるくらいさ。
こういった国で売られているタバコの箱には子どもにもその危険性がわかるように…
(こわい絵や写真が貼られているのです)

タバコとお金


タバコを吸う人が一生でタバコに使う金額っていくらになると思う?


なんと、一日一箱ちょっとだと40年で新車が2台買えちゃうんだよ!!
(1箱300円のタバコを1日に25本吸った場合)


1日1箱でも30年分のタバコに換算してみれば、その数 実に1万950箱、本数にすると21万9000本!

七海たちは驚いてしまいました。
「1万箱分以上のタバコの毒を飲むことになるのね…」
「おええ、病気になってあたりまえだよ」


270円の外国産タバコの葉っぱの原価は一箱10円もしないんじゃないかな?
タバコ会社は大もうけだね!


でもさっき言ったように先進国では25年くらい前からタバコが売れなくなっている。
(前ほどもうからなくなったゾ!!)

ちょうどお父さん達が吸いはじめたころだ。


そこで目をつけたのが、日本の若い女性と子どもたち!!
今までタバコを吸わなかった人たちを、新しいお客として狙ったんだ!!

「なんで日本なのよ!」

そのころの日本は、タバコの箱に警告文をのせなくてよかったし、テレビや雑誌でドンドン自由に宣伝できた!
カッコイイ俳優を使ったり、明るくさわやかなコマーシャルで、タバコのイメージをおしゃれに見せかけていたんだ。
子どもはカッコイイ大人にあこがれる。その力を利用して、子どもにタバコを吸わせてきたんだ!

お父さん達は、タバコの真実を知らない被害者なんだよ。
今ではようやく世界中でタバコは人類にとって放っておけない問題として対策がとられてきているけどね。
どうだい? タバコを吸いはじめるとこんなに人生が変わっちゃうって、わかってもらえたかな?
しかもお金だけでなく、吸うたびに何よりも大切な子どもや自分の寿命を縮めているんだ。


そういえば先生、パパみたいなヘビースモーカーは「軽いタバコ」なら少しはマシなんじゃない?

あれはフィルターのトリックなのさ!
つまってるタバコはみんな同じだよ。

 健康を気にするお父さんたちは、低タール、低ニコチンの軽いタバコなら安心と思っているかも知れないけれど、それは大きなまちがい。
 軽いタバコは、フィルターのところに小さな穴をたくさん開けて吸いこむときに空気で薄めているだけなんだ。タバコの中身はほとんど同じだから、吸うときに指やくちびるで穴をふさいでしまったら普通のタバコと変わらないよね。
 それに、体がほしがるニコチンの量は変わらないから、うすいと無意識に深く吸いこんだりして、よけい体に悪いこともあるんだよ。そのうえ最近は臭いを消したり煙を少なく見せるため、いろいろな添加物を加えているようだから、かえって危険かも。

「先生!!どうしたらパパのタバコをやめさせられる?」
「今度の講演会に、パパもぜひ連れて来てよ」

講演会 当日


七海のお父さん、お母さんも講演会に来てくれました。

…このように、タバコについては今まで真実がほとんど知らされていなかったのです。
タバコでストレスが解消できるというのも、実はウソなのです。

 タバコを吸わないとイライラしたり、集中できなくなるのはニコチンが切れてくるから。タバコを吸うとニコチンの量が増えるからイライラがおさまり、ストレスを解消できたと思ってしまうんだけれど、これは大きなかんちがい。
 ニコチンが切れることでイライラしている禁断症状が解消されているだけで、そもそもタバコを吸わなければこんな禁断症状で苦しまなくてもいいんだから。
 タバコは一度吸いはじめたらずっと吸い続けることになってしまう、麻薬のようなおそろしい薬物なんだよ。

 タバコを吸う人の道は、山あり谷あり、ニコチンが切れるとすぐ山登りをしないといけない!
 でもホントは山を登っているんじゃなくて、落っこちてしまった穴からはい出しただけ。
 ニコチンが切れるとまた、次の穴に落ちてしまうんだ。
 どんなに苦しくても、ニコチンと手を切るまではずっと続く…

タバコを吸わない人は、平らな道をラクラクと歩いていくことができる!


タバコで解消できるのは、ニコチン切れの禁断症状によるストレスだけです。
つまり、切れたニコチンを補給して満足しているだけなのです。


保護者のみなさんの中でも、「タバコを吸っても病気にならない人もいるから平気」と思っている方がいらっしゃると思いますが、タバコがほかの薬物と違うのは、「ゆっくりジワジワと死に至らせる」という点です。

タバコを吸って本当に健康な人なんかいません!
大切なお子さんのためにも、タバコのワナに気づいてください!!

子供たちの中で吸っているお友達がいたら、本当のことを教えてあげてください!
タバコは麻薬のようにやめるのが難しいものですが、今は気軽に禁煙にチャレンジできるニコチンパッチやガムがあります。
ぜひすぐに利用してタバコから自由な生活にもどりましょう!!

「タバコは大人になったら吸ってもいい」のではなく、一生手をつけてはいけない薬物(ドラッグ)なのです!!

タバコは自分の心と体を不自由にするだけです!!

せっかく健康に生まれてきた体を、タバコなんかでだいなしにしないでください!

あれから半年


おーい、サイクリングに行くぞー!!

パパは自分のため家族のために禁煙に挑戦してくれました。


だいぶ苦しかったようだけど、本当はタバコをやめるきっかけを待っていたんですって!


わたしはタバコのためにお金を使う気はないし、
何よりも大事な自分の人生をタバコのためにだいなしにしたくありません。
だって健康でいろんなことたくさんやりたいもん!!

まとめ

  • タバコは「大人の嗜好品」ではありません。
  • タバコは強い依存を起こさせる麻薬のような薬物です。

タバコ規制枠組み条約(FCTC)

Framework Convention on Tobacco Control

 FCTCは「人類の健康」をめぐる公衆衛生分野で始めての国際的な取り決め(条約)です。2003年5月、世界保健機構(WHO)の第56回総会で加盟192か国の全員一致で採択されました。巨大なタバコ産業を持つアメリカ、ドイツ、日本は悪の三枢軸国といわれ、最後までこの条約に難色を示し、効力を骨抜きにするための多少の工作には成功したものの、条約の大筋を変えることはできませんでした。
 タバコはその有害性、危険性から人類にとって放ってはおけないものと判断され、全世界が一致してその規制に乗り出すことが取り決められたのです。最後まで抵抗した日本も厚生労働省、日本医師会などの強い働きかけから速やかに条約を批准し、2005年2月27日に発効されました。
 FCTCの目標は「タバコ消費の削減」であり、それを達成するため、条約に沿ってそれぞれの国が連携し、協力して取り組まなければならないタバコ対策を詳しく定めています。それらはすべて、若い人たち、子供たちの喫煙を防ぐために規定されたと言っても過言ではないでしょう。

FCTCの最大の目標「タバコ消費の削減」を達成するための3本柱
  1. タバコをすすめる広告を、5年と期限を定めて全面禁止する。タバコにその害、危険性の警告をわかりやすく表示すること。
  2. タバコの税率を引き上げ、その値段を上げること。(日本ではあまりに割安なので、倍以上の値上げが必要になるでしょう)
  3. 未成年者への販売を禁止するために、自動販売機などの規制を行うこと。手をつけないための啓発教育と、受動喫煙対策をちきんと行うこと。
 タバコ消費がFCTCに沿って順調に減っていくかどうか、それは私たち一人ひとりが正しい知識を持って、それぞれの地域で目を光らせていくしかないでしょう。

関連リンク