目次 :2010年(平成22年) :


タバコ値上げと禁煙外来(2010年10月)


最新タバコ事情92

 10月からの百円を超す値上げは、我がタバコ天国日本に想像以上の大きなインパクトをもたらした。不思議なくらい値上げに対する怨嗟の声は聞かれず、駆け込み需要を煽るコンビニや小売店の威勢の良い掛け声ばかりが目立った。JTの9月の売り上げは前年同月比188%増とまさに特需となったが、私たちにとっては10月からの売上げの落ち込みが待ち遠しい。
 ニコチン依存症治療に関わる立場から見ると、今回は真剣に禁煙を考える人が激増しているようだ。自力で禁煙に踏み切る人も少なくないが、禁煙外来を受診する患者さんも急増、主力となる禁煙薬「チャンピックス」が増産にもかかわらず品切れとなる事態が起きている。俳優さんを使ったCMの効果があったにしても「禁煙のために病院に行く」ことに理解が得られたのだろう。
 値上げばかりではなく、自由に吸えない環境整備も大きく後押ししている。厚労省の「職場の完全禁煙通知」は罰則がないため無視されがちであったが、ここにきて労基局が関わる労働安全衛生法による「義務付け」に格上げされる。これが実は大きな意味を持ち、職場環境も大きく変化するだろう。
 最大の問題は「再喫煙」という揺り戻しである。ニコチンと言うのはたった150年で世界を席巻してしまったドラッグである。決してヤワな代物ではない。私たちは《3カ月やめてまず禁煙のスタート、半年やめて半人前、1年過ぎてやっとタバコを吸わない人の仲間入り》と考えている。薬物に侵された脳(辺縁系)の構造は生涯治癒することはない。しかしドラッグのない生活に戻れば徐々に回復、薬物の呪縛はどんどん弱くなる。止めようとする時、これから一生タバコを吸いたい気持ちに耐え続けるような「怖れ」を抱かせるのが、実は「依存性薬物」特有の罠なのだ。

2010年(平成22年) に戻る