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糖尿だけどタバコくらいいいでしょう?(2009年4月)


最新タバコ事情75

 糖尿病外来に通院中の患者さんが、風邪などで一般外来に回ってこられたとき、タバコのにおいに敏感な私はすぐに喫煙者だと分かってしまう。「タバコ吸ってるんですかぁ」と素直に疑問を投げかけると「タバコくらい、いいですよね。食事にはしっかり気をつけてますから。それにタバコをやめると食欲が増してコントロールが難しくなるってよく聞きますよ」とおっしゃる。糖尿病外来の先生とも話し合ったが、「タバコが良くないのは、充分わかっていますがとても聞いて呉れそうもないですから、それ以上は…」とのこと。
 門外漢ながら、むくむくと疑問と憤りを感じてしまう。私は喫煙が諸悪の根源と考えているくらいの反タバコ医療人、糖尿病のある方がタバコを吸うのは、私にとっては全く信じられないこと。タバコと糖尿病の病態には強い相関があり、喫煙者に生じるインスリン抵抗性からその発症が促され、治療も阻害される。更に合併症につながる血管内皮細胞障害も相乗的な悪影響を受けることが明らかになっている。
 いまメタボリック症候群が騒がれその対策が脚光を浴び、国の健康政策も大きく変わったといわれる。しかしタバコに三十年近くも関わっているとこれまた「例によって歪められた政策だなぁ」とすぐ気付いてしまう。
 私たちが生活習慣病に対し何を最優先課題とすべきか、世界をひと当り眺めるだけで明らかだろう。メタボが最優先などという国はどこにもない。人の生き死に関しては多くのコホート(前向き疫学研究)が示すように喫煙習慣と高血圧が最も大きく関与し、メタボや高コレステロール血症などモノの数ではない。なかでもタバコは殆どの生活習慣病をほぼ同じようなメカニズムで悪化させ、老化を進める。糖尿病のある方がタバコを吸うのは自傷行為の最たるものなのだ。

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