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第57回保健文化賞を受賞して(2005年11月)


最新タバコ事情68

 この度、第57回保健文化賞という大変な賞を頂き、両陛下にご拝謁の栄まで賜りました。私のタバコとの戦いは今まさに道半ばというところで、いささか厚かましい気持ちが拭えませんでした。
 しかし「禁煙教育」という分野に伝統と権威ある賞が与えられることで、世界の流れから取り残された日本の青少年タバコ対策に社会の関心を引くことになれば、これは大きな援護になると考えました。
 私は昭和56年に帰省して父の後を承継、故郷でどっぷりと地域医療につかっているうち、多くの患者さんが喫煙で健康を失いながらもやめることができず、吸い続ける様子を目の辺りにしました。熱心に禁煙を勧めましたが、結果は惨憺たるものでした。タバコをやめてくれる患者さんは誰もいなかったのです。
 そのとき思い出されたのが57歳で早逝した父のことです。戦後のモノ不足で、危ない手術に神経をすり減らす診療生活のなか「蚊とハエのいない村にするのだ」といって、近隣の人々と環境衛生改善運動に没頭していました。私は、「みんなとお酒を飲む口実を作りたいだけじゃないの」という母の言葉のほうが信用できる気がしましたが、地域の人々と楽しそうに環境衛生を語る父は素敵でした。三槽便所を導入し当時では考えられなかった「夏場に蚊帳のない生活」を実現し、「第六回全国環境衛生大会」で厚生大臣表彰を受けたのです。
 後に私が喫煙問題と向き合ったとき、「タバコは、父にとっての蚊やハエと同じではないか」と直感し、私はライフワークとして「無煙世代の育成」を心に決めたのです。

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