学校教育の中でタバコをどう捉えるか

無煙世代を育てる会 代表/全国禁煙・分煙推進協議会 会長
日本禁煙学会 理事/光潤会平間病院 院長 平間敬文

『学校保健ニュース』高校版 2008年8月号・9月号・10月号
株式会社インタープレス
 
 【前編】 ニコチン依存と健康被害へのつながり
 
 学校の日常の保健業務のなかで、タバコというきわめて厄介な薬物と対峙し、防・禁煙教育にまで持ち込めるかどうかは間違いなく困難な問題である。しかし、いずれにしても対応せざるを得ない課題であることは、ほとんどの先生方が身にしみて感じているはずである。この問題を2つの側面から考察することで、日常の生徒指導に役立てていただきたいと考え、2回にわたり私の考えを述べさせていただきたい。
 ひとつは、薬物としてのタバコ・ニコチンに対しての理解が我が国に固有な多くの事情でゆがめられ、教育者として当然得るべき新しい知見をリアルタイムに手に入れること、また情報を得たとしてもそれを教育現場に組み入れることは甚だ困難になっている。言ってみればタバコという薬物に「無知」であることは、特に教師として全く障害にならないですむということで、実のところ喫煙問題にかかわる「危機感、切迫感」の欠如は、教育界の日本固有と言って良い特殊事情となっている。これらのある力によって作られてきた「無知」について薬物依存としての「生理・科学的側面」と、タバコという薬物を許容し政策的に擁護し続けようとする我が国の「社会的側面」に分けて少し詳しく考えていきたいと思う。
 

依存性薬物としてのタバコへの薬理学的、生理学的理解を深めること

 「タバコはなぜやめられないのか」、禁煙するということの恐るべき困難さについて教育に関わる人々に十分にに理解されているであろうか。私の経験からは、コカインや覚せい剤、大麻など「ドラッグ」はタバコと関係ないと思っている方が未だに多く、「依存性薬物」としての理解と問題意識はさほど大きいものではない。下図を見てほしい。1988年の米国公衆衛生長官報告に始まり、アンソニー、ナット論文、更に2000年の英国王立医学会報告に至るまでに合意されていった依存性薬物のランキングである。麻薬や依存性薬物といわれるものに序列をつけることはやさしいことではない。動物実験で中毒に仕上げたサルやマウスがどれくらいその薬物に対して強い「渇望」を持つかだけでその序列が判断されていた時代があった。そのころは精神依存が主となるニコチンなどは、派手な身体的禁断症状を表さないためおよそ軽んじられていた。多剤に薬物依存のある多数の患者さんを選びだし、ヒトの薬物摂取欲求や行動パターンのおよぼす影響を丁寧に定量化してみることでタバコ・ニコチンの薬物としての特性がやっと浮き彫りになった。動物実験では有名な日本の柳田知司の依存性薬物に関する論文が6編も検討に加えられた上で、この薬物依存ランキングは作られている。見ての通りタバコのランクの高さに驚かれることだろう。ヘロイン、コカインに次ぐ第3位の依存性薬物なのである。マリファナやアンフェタミン(覚せい剤)、LSDなど恐ろしげな薬物をはるかに凌駕する「麻薬性」と言うべきものを具備している薬物であることをまず知ってほしい。
 薬物の依存性に関して、その序列を決める要素は(1)薬物中毒になりやすさ、つまり依存症への入り口の広さ、(2)薬物を欲しがる「渇望の強さ」と、次項に関わる「禁断症状の強さ」、(3)薬物の止めにくさ、つまり依存症から抜け出す出口の狭さ、という3点から考えていただければよく分かると思う。これに加え、価格や手に入れやすさ、精神(心理的)毒性、合併症としての甚大な健康被害を加味して、分野も異なる多くの研究者によりこのようにランキングがなされたのである。

【依存性スコアの平均値】
ドラッグ名依存性スコア平均値
ヘロイン3.00
コカイン2.39
タバコ(ニコチン)2.21
アルコール1.93
アンフェタミン1.67
マリファナ(大麻)1.51
LSD1.23
エクスタシー1.13
溶剤(シンナー、トルエン)1.01

Experimental and Clinical Psycho Pharmacology 1994 Vol.2 No3,244-268 James C.Anthony

健康被害の甚大さ、根深さ

 依存性の強さに支配され、ほとんどの喫煙者により長期にわたるタバコ使用が続けられるが、その身体毒性についてのランクは何と1位に跳ね上がる。WHOはタバコによる犠牲者は毎年世界で540万人、日本で11万人にのぼると推定している。これはニコチンのみで起こるわけではない。燃焼による生成物の吸引という喫煙行為に付きまとうタールによる根深い蓄積毒性の影響が強く、タール量が少なければ少ないほど健康被害は小さくなるが、タールを抜いたタバコは売れない。これはタバコ産業にとって最も悩ましい問題のようである。ニコチンの依存性に引きずられ、その吸入混合物の毒性や発生する活性酸素の細胞障害性により、一日25本以上の喫煙者は70歳までにその半数が早死していく。
 さらに私たちが決してタバコを許すことができない根拠となる科学的知見が時とともに、それこそ降りつむ雪のように積み重なってきた。受動喫煙の問題である。迷惑問題と考えられてきた他人のタバコ煙の問題が、2004年のIARC(国際がん研究機関)のモノグラフや米国公衆衛生長官報告などにより、多岐にわたる疾病との因果関係や健康被害論争に科学的根拠を以て明確な決着がつけられた。「未だ完全な科学的知見であるとは言えない」と強弁し、認めようとしないのは日本のタバコ産業くらいであろうか。また受動喫煙にはこれ以下なら大丈夫という安全閥値は存在しないこと、マナーの向上による共存や分煙という抜け道も、詳細な研究から実は成り立たないことが明らかにされてきた。これらは日本禁煙学会HPなどで学んでほしい。

【慢性身体毒性スコアのランキング】
ドラッグ名慢性身体毒性スコア
タバコ(ニコチン)2.9
ヘロイン2.5
アルコール2.4
カンナビス2.1
コカイン2.0
バルビツレート1.9
アンフェタミン1.8
LSD1.4

Experimental and Clinical Psycho Pharmacology 1994 Vol.2 No3,244-268 James C.Anthony

受動喫煙と子どもたち

 これらにより学校敷地内禁煙は理論的根拠を持ち、和歌山、茨城、青森と次々に宣言され全国で実施に移されていった。喫煙は個人の嗜好の問題であり、リスクを承知の上での選択、つまり自己責任による「自傷」行為の範疇との主張もあって、合法的に吸う教職の人々に喫煙規制を要求することは難しかった。それも「他害」の問題になると攻守逆転する。子供たちをいかに守るかがテーマになると、喫煙者特有の認知のゆがみを以てしても表立っての抵抗は大変難しくなった。受動喫煙のこの考え方、「いわれなき健康被害から何びとも自由であること・それは基本的人権の問題である」ことは、タクシー禁煙化推進運動でも信じ難い、すさまじい広がりをもたらした。考えられないことだが、わずか数年で全国の6剖を超えるタクシーが禁煙車輌となったのである。
 サイエンスを後ろ盾に、確実に大きな社会変革ともいうべきものが今起こっている。学校教育におけるタバコ問題もその社会的うねりの中で捉えていく必要があるだろう。
 
 
【後編】タバコを許容してきた社会とその変容
 
 子供たちの間に広がるタバコへの好奇心とその恐ろしさに対する無知を前にして、私たちが立ちすくんではいられない。子供たちをとりまく強固に作られた「タバコ天国日本」の社会科学的側面と生理化学的側面から「真実を伝え、行動変容を促す活動」は、今まさに教職、医療職に委ねられているといっても過言ではないだろう。国際社会の反喫煙の潮流に見合った社会変革をあてにして、私たちが無為に待つことは許されない。
 

嗜好品として特別な位置づけに

 私たちの日本は、体制内にタバコ会社もつを先進国で唯一の国である。それも「たばこ事業法」という世界に稀な悪法により「たばこ産業の健全な発展を図り、以て財政に寄与する」ことが定められている国なのである。現在も「タバコは大人の嗜好品」という販売促進のコピーが多くの国民に受け入れられている。長い時間をかけた強い「刷り込み」がなされてきた結果である。「嗜好品」とは外国語には置き換えがたい日本語で、相変わらずタバコは酒、コーヒーと同じ類のものとされている。しかし、もし酒やコーヒーに60種類もの発がん性物質が含まれていたら、いくらおいしくても毎日摂取するだろうか。タバコだけが食品衛生法や薬事法、PL法などに該当せず、規制する法律がないため添加物の表示すら求められないだけのことなのだが、多くの人びとがその矛盾に気づくことはない。確実な税収の見込まれる財政物資として、国民の甚大な健康被害は無視された特別の位置づけがなされている。

禁煙教育の壁に

 この欺瞞に教育者が正面から立ち向かうのは困難であった。大人に喫煙は合法であり、未成年は「未成年者喫煙禁止法」により違法であるという1点にすがって、今まで禁煙教育がなされてきたといってもよいであろう。また体制を背にタバコ産業は喫煙を歴史ある文化として喧伝し、その販売を確固たる社会システムとして確立してきた。たばこ税の地方自治体財政への出来高還付などは、地方行政に歩合制で販売促進を求めた巧妙な制度といってよいであろう。地方自治体の管轄のもとで教育に携わる人々が、「薬物、ドラッグ」としてタバコ・ニコチンを捉えることなどできなかったのも当然であった。
 私の関わる医療界では公衆衛生上の重要な問題として理解されてきたかというと、これもまたお寒い話である。世界では英国、米国医師会などのように医師の集団が先頭に立って、保健省、厚生省など国民の健康にかかわる政府組織と共にタバコ産業と熾烈に戦ってきた。我が国医師会は不可解な政治的配慮と無知とにより近年にいたるまで明確な反喫煙の姿勢をとることができず、結果として日本を先進国随一ともいえるがん大国に至らしめた。その無作為責任は決して免れ得ないであろう。

タバコ天国日本の成り立ちを考える

 少し歴史をひもどいてみよう。わが国でのタバコ産業の完全な独占所有は1904年に始まる。日露戦争の戦費調達のためであったが、目的を達した後もその担税能力の高さに気づいた政府・官僚はその支配をより確実なものにしていった。専売公社時代から現在のJTに至るまで、上級官僚がタバコ産業のトップとして天下りして支配、中級官僚が政府部内の反喫煙的活動を厳重監視、販売促進を後押しするというスタイルを確立した。大蔵省、財務省は毎年の予算編成プロセスの支配力を通じて、無言のうちにいかなる「タバコ対策」をも立ち消えにさせてきたのである。これは厚生労働省のみならず文部科学省、自治省、消防庁に至るまで厳然とした圧力となった。ちなみに2006年度の厚労省予算を見てみよう。国のがん対策の要になるタバコ対策費が何と4100万円なのだ。この支配力は当然政界にも遺憾なく発揮ざれ、どれほど国の健康政策の優先順位をゆがめてきたかがお分りいただけると思う。

【2006年 厚生労働省予算】
シックハウス対策費2億8千万円
自殺予防対策費9億1千万円
エイズ対策費89億円
BSE対策費4千億円
タバコ対策費4,100万円

2回の大きなチャンスを逃して

 わが国にも、この大きな政策の誤りを正す大きな2回のチャンスがあった。1回目は喫煙の明確な害について米国公衆衛生総監レポートが出た1964年、事の重大さに気づいた厚生省児童局長、公衆衛生局長が喫煙の危険性とその消費に警鐘を鳴らす通知を全国自治体に出したのである。しかしこれは2週間もたたないうちに徹底的に叩き潰され消滅、その後実に30年余にわたり喫煙対策が健康問題として正面から顧みられることはなかった。2回目のチャンスは2000年の「健康日本21計画」であり、危機的なタバコ許容社会日本を世界の流れに引き戻す健康政策の大転換を目指した。国民の喫煙率半減を数値目標に掲げた画期的な喫煙対策であったが、成立する寸前にやはり大きな力で潰された。
 しかしその敗北の灰の中から立ち上がったのが、2003年の「健康増進法第25条」受動喫煙防止の義務化である。これは罰則規定も持たない弱い法律ではあったが、「タバコは個人の嗜好の問題」として突き放してきた業界の強引な論理も、それが他人へ健康被害を与えるという明快な科学的知見には抗すすべもなく、地方自治体の受動喫煙対策をはじめ国民のタバコ離れをもたらす大きなきっかけとなったのである。

健康増進法第25条から今大きな社会変化が

 これを根拠に学校敷地内禁煙、千代田区の歩行喫煙禁止区域設定、公共交通機関や全国の6剖を超すタクシーの禁煙化など大きな社会的変化といわれるものが続けざまに引き起こされた。
 いま最大のホットニュースは、何もできない政府に対して公共的施設の「禁煙条例」の制定に向かう神奈川県政であろう。レストランや飲み屋まで禁煙にするのは過激で、WHOにかぶれた行き過ぎた考えではないかとの反論があるが、非喫煙者には受動喫煙による破害を受けずに健康に生活する権利がある。タバコの煙からの自由を非喫煙者の基本的生存権として勝ちとってきた先進諸外国は、多くの障害を乗り越え法の下での安全な生活を獲得している。FCTCに沿ってEUを中心に世界的な広がりを以て「禁煙法」が成立しており、それは今では多くの人の知られるところとなった。日本は確かに大きく遅れてはいるが、ほとんどの国々も喫煙対策は地域から地方自治体に及び、やがて中央政府への変革につながっていく場合が多く、神奈川県政の力強い動きは我が国健康政策の大きな転換点になる可能性が大きい。
 ここで心配なのは日本国民に「タバコ企業がその収益を守るためどれ程悪どい事をしてきたか」という知識背景のないことである。神奈川県の受動喫煙対策の条例化に対して、タバコ天国日本の存続を好ましく思う勢力により、国民の無知を利用してあらゆる手段を用いての切り崩しがなされているようにみえるのは杷憂であろうか。
 私たちが遭遇しうる最大の環境汚染物質、発がん性物質はタバコの煙なのである。

1000円タバコ反対の裏に

 タバコ1箱1000円論が今クローズアップざれている。多くの先進国の半額にも満たない異常に安い販売価格が、長い間低所得者に配慮すべきとの課税の不公平論議にすり替えられ、狡猾に守られてきた。実はタバコ値上げで最も経済的影響を受けるのは青少年である。彼らが手軽に買える価格内にとどめ置くことは、タバコ産業にとって将来の顧客確保に関わる最優先の命題なのだ。更に「タバコ貿易は第2次アへン戦争」と揶揄されるように、大幅な価格値上げが国民のタバコ離れ、消費減につながり、貿易摩擦が再燃しかねないことを強く危惧し反対する大きな勢力も存在する。税収は確実に増えることが分かっていても、喫煙率低下による総消費量の減少を恐れ頑強に抵抗を続けている。世界最大のタバコ輸入国として、国民の健康と引き換えに貿易収支バランスの不均衡をうまく避けてきた財界、産業界のエゴと保険業界第3分野(がん保険など)への配慮が見え隠れする。しかしタバコ値上げによる消費抑制政策はたばこ規制枠組み条約(FCTC)の最優先課題となっており、締約国である我が国には、この国際法に対し憲法にかかわる明確な遵守義務があることを忘れてはならない。
 軽視できないのは、国民の公器たるメディアが活字、電波に限らず広告収入からの営業サイドのプレッシャーから延々と両論併記を続けていることである。大手広告代理店などは販売促進効果のためには手段を選ぶ考えなどもちあわせていないようで、ほとんどタバコ業界と同体と考えてもよいだろう。FCTCの規制により銘柄広告ができなくなってからは企業の社会的責任行動(CSR)と称し、社名を前面に出し、その好感度を上げるという実に手の込んだやり方を進めている。いろいろな青少年健全育成の社会教育活動に入り込み、青少年の喫煙防止プログラムの提供まで行っているが、これはむしろ本来の活動目的の足を引っ張る以外の何物でもないことが明らかになっている。FCTCの条文でも明確に防煙活動へのタバコ企業参入禁止を求めている。彼らは運動の中で必ず「未成年には法律で禁止されている」ことを力強く謳わせるが、「禁止」という言葉ほど魅力的でインパクトのある誘い文句はないことを知りぬいてのことである。この言葉は禁煙教育ではまさに「禁句」なのだ。

若い女性の喫煙習慣蔓延に対する教育の責任は

 いま若い女性に喫煙習慣が寒気のするような広がりを見せている。女性の喫煙率は下がっているというタバコ産業側の調査を信じることはできない。彼女たちと話すと全くと言ってよいほど罪悪感がないことに驚く。女性の喫煙がもたらす未来社会への悪影響が憂慮されていないわけではないが、抑制しようにもそれを行う主体が全く存在しないのが我が国の現実。ジェンダーの問題に関わるのを恐れるためか、正面から女性の喫煙抑制を取り上げるメディアも極めて少ない。この間題がどれはど大きな意味を持つのかは、証拠のある科学的知見として次々に明らかになっており、知れば知るはど恐ろしく深刻な事態なのである。
 蔓延する原因ははっきりしている。まず若い女性にタバコを売ろうとする圧力が非常に大きいこと、手の込んだ宣伝手法による刷り込み効果も加わって女性が男性と同じにタバコを吸うことを否定的に捉えられないこと、「タバコの不都合な真実」を教育する機会が高校卒業以後はほぼ完全に失われることなどによるだろう。彼女たちのタバコが次世代に残す傷跡を考えてみよう。妊娠時にまでさかのぼる超早期の受精レベルでの遺伝子への影響や、脳の辺緑系の成熟異常がもたらす児の行動異常、がん発生の下地づくりなど研究は急速に進んでいる。この事態に対し、大きな責任というか、これを抑えることのできる可能性を持つのが高校教育で、彼女たちをタバコから守る最後の砦といっても過言ではないだろう。これ以降、彼女たちにタバコの問題でかかわれる人は誰もおらず最後のチャンスとなる。将来にかかわる影響の大きさから思春期における性教育は確かに大切だが、禁煙教育は社会的ダメージの大きさ、緊急性から、むしろ最優先の課題と考えたい。無知ゆえにニコチンという薬物に飲み込まれていく若い人々を見るのはつらいものである。

受動喫煙被害を前面に

 建前上「タバコは大人になっても吸ってはいけない」とは言えない教育の現場では、むしろ受動喫煙被害を前面に理解を求めていくのがひとつの戦略ポイントであろう。くり返すが、今や子どものみならず、大人に対しても大きな健康被害を引き起こすことが揺るぎない科学的知見となった。「受動喫煙という環境汚染」には、これ以下なら大丈夫という安全なレベルはない。タバコを吸う権利も認めるべきという主張には、「その通りです。吸っても結構です。でも絶対吐きださないでください。人前で煙をまき散らす権利はないのですから」と答えるよう教えてよい。「タバコを吸う自由」が他の人の「健康に生きる自由」に優先するはずもない。家の中でお父さんに吸わないように要求することは禁煙を促す効果もあり、吸いにくい家庭環境づくりが実は大きな親孝行となる。タバコについて無知なまま喫煙者に仕立て上げられた親たちにとって、子供からの新しい情報はニコチンという薬物をやめる大きなきっかけになるだろう。 先進諸外国では自宅も含め、法の下に子供たちが受動喫煙から守られる環境整備が整いつつある。わが国でも神奈川県の受動喫煙防止条例の成立が待たれる。

学校での実践活動につなぐために

 喫煙生徒に対する対処法がいま大きな様変わりを見せている。今まで医薬品として医師の診察、処方を求められていたニコチンパッチがOTC化され、処方箋なしで薬局から手に入れることが可能となった。ニコチンパッチによる禁煙法はニコチン置換療法と呼ばれ、現在最も普及している効果的な禁煙法である。また、この方法は喫煙歴の短い青少年にはきわめて有効で、大人たちに比べて非常に少量のパッチで、また短時間の使用で強力な禁煙支援効果が期待できる。私の経験では、高校生では市販のニコチネルTTS20でも10枚以内の貼付で禁煙に成功する場合がはとんどで、中学生の場合など4〜5枚で済んでしまうことが多い。保護者(これがまた厄介ではあるが)に理解させて、薬局薬剤師さんあるいは医師と相談のうえぜひとも試みてはしい。罰則規定や短期の禁煙教育、両親からの圧力に頼る方法はほとんど無効であり、禁煙支援法はもう大人と変わるところは何もない。薬物依存を知りニコチン依存症の治療者としてのスキルを高めなければならない。
 ただ「大人より容易に再喫煙に陥る」のが青少年のニコチン代替療法の悲しい特徴であることも知っておく必要がある。禁煙はしやすいが再喫煙の防止が極めて難いため、禁煙成功後の徹底したアフターフォローが重要なポイントとなる。これは身近で見守ることのできる教育者に期待されるところである。グループを形成する友人たちを巻き込むことができれば、可能性はさらに大きなものとなる。
 一度依存に陥った脳は完全に治癒することはないといわれる。彼らの人生にタバコが本当に必要なのか、「作られた無知と、思春期特有の歪められた心情」を汲みとりながら、国が勧めているこの薬物に染まらず生きることの価値観を泥臭く理解してもらうしかない。私が師と仰ぐ故平山雄先生が繰り返して述べておられた「タバコなどという薬物にとらわれない自由な生き方」こそ、おそらく私たちが子供たちに残せる最大の財産ではないだろうか。
 

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