いま禁煙外来が面白い


【LAZER】

ラゼール タブロイド 2011 Spring Issue

産経新聞 東京本社発行 「開業医の皆様へお届けする情報紙」

 平間 敬文(ひらま・たかぶみ) 平間病院院長(茨城県下妻市)

いま禁煙外来が面白い

 今、たばこの大幅値上げに伴って禁煙外来が一躍脚光を浴びている。このデフレ不況の中で100円を超える値上げはさすがに喫煙者に痛手となったのか、真剣に禁煙を考えるきっかけを与えたようだ。
 タスポも多少なり自販機で買う煩わしさを増幅してくれたようで、コンビニでの1カートンずつのまとめ買いが主流になりつつある。それが以前なら3,000円で済んでいたものが急に4,100円からの支払いとなり、一挙にコンビニの多額購買者、上得意になったものの、コンビニで5,000円からの買い物をするのは結構抵抗があるのだとか。まとめて買うことでやっと自分がタバコで多額の浪費をしているのに気づいた人も多い。
 これが今回の禁煙に向かう一つのトレンドとなり、月4〜5人だったニコチン依存症治療の新患さんが一挙に3,4倍に増加した。およそ300万人が禁煙を目指すだろうと言われている。ところがここで思わぬ事態が起こった。治療の主流である内服の禁煙補助剤が一挙に品薄となり、供給不能という状態になったのである。
 多くの禁煙外来で治療を求めてきた患者さんをお断りしなければならないことになり混乱させられた。バレニクリンの販売元ファイザー社の需給見通しがまるで出来ていなかったことによるものらしく、大きな販売チャンスを捨てたことになる日本支社ではトップの首が飛ぶことは確実だろうと海外メディアが伝えていた。新年からはやっと供給体制が整って、通常の診療体制となったがやはり患者さんは多い。
 さて、全国では健康保険適用要件を備えた禁煙外来を持つ施設が今では全国で1万ヵ所を超えている。禁煙パッチ(貼り薬)時代は指導の煩わしさから新しい開設が伸び悩んでいたが、バレニクリン(チャンピックス)の登場で大きく様変わりした。日本人の「お薬を飲んで治療する」という感覚に合ったこと、治療側としては一般外来の中になんとか取り込めるくらいニコチン依存症診療がスムーズになったことによると思われる。
 ただこの治療はお薬を出すことだけでどうなるものではなく、患者さん(喫煙者)の認知の歪みを変えることが重要なポイントで、これが治療の成否に大きく関わってくる。初診時にこの治療がどのようなものかを分ってもらうには、ニコチン依存症について手短にその本質を納得して頂かなくてはならない。
 まずタバコはドラッグであること、自分が薬物依存症という脳の病気であることを認識してもらう。禁煙するにあたって、なお残るタバコへの渇望、不安、寂しさに対しては、「今の気持がこのあとず〜っと生涯続くような気がすると思うが、それは絶対ない。そんな気持ちにさせるのが「ドラッグ」の特徴の罠、せいぜい1〜2ヶ月で自然に消えていくもので、あとで《ああそうだったのか》と気づくだろう」と正しく伝え不安を軽減しておく。
 1日の喫煙本数や喫煙期間、血中CO濃度は実際あまり重要ではないが、その人のタバコに対する考え方や思い込みを知るのには有用である。「嗜好品」という明治時代の造語にその麻薬性がうまく隠されていること、軽いタバコや添加物の仕掛けを知り、今世紀中には消えていくであろう悪習と手を切り、タバコなど全く必要でなかった本来のあなたに戻ってもらうのが今回の治療の目的」とお話している。
 同時にこれが大切なことだが、薬物でやられた脳の構造は回復することはあっても決して治癒することはない。何年たっても1本吸えば2本目であっという間に今の中毒状態に戻ってしまうことを理解させ、初診時から再喫煙防止に半分くらいのウエイトをかけておく。これが重要である。3ヶ月間きちんと内服を続ければほとんど誰でも禁煙できるが、それからが本当のスタート、半年で半人前、1年たってやっと吸わない人の仲間入りと、のんびり構える気持ちを持って頂く。
 ニコチン依存は極めて再発しやすい病態で、他人の煙がそのトリガーになる場合が多い。副流煙から全く守られることのない今の日本の社会環境は、再喫煙に陥る危険性に満ち満ちているが、法的整備も徐々に進んでいる。禁煙外来は面白い。ニコチンの呪縛から解き放ち、一人でも多くの人々をあのヤニくさい世界から救い出したいものだ。

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