《学校教育とたばこ議論》 ・・喫煙防止に増税を・・

無煙世代を育てる会 代表 
全国禁煙推進協議会 会長 
光潤会平間病院 院長 平間敬文


茨城新聞 【寄稿】 2008年(平成20年)12月12日

《学校教育とたばこ議論》・・喫煙防止に増税を・・

 愛知県の全寮制私立高校で、寮内に喫煙室が設けられていたことが判明し、県警は「未成年者に対する喫煙場所の提供」という条例違反で書類送検し、同校も直ちに喫煙室を廃止することにしたという報道があり、教育界で大きな論議を呼んでいる。

 全く同じ状況と言える事件が一九九二年、長野県の戸倉上山田中学校であった。敷地内に吸殻が散乱した状況に、熱心な教師たちは禁煙指導に正面から取り組み、タバコをどうしてもやめられない約十人を特定した。登校時にそれらの生徒からタバコを預かって二時間目と昼休みに禁煙指導をしながら理科室で喫煙を認め、徐々に本数が減り効果が目に見えてきたころに「学校に喫煙室」と報道され、今回同様「罷りならん」と活動に終止符が打たれた。私はこの先進的で熱意ある禁煙教育に心から賛意を表し、応援のメッセージを送ったものである。

 今回の報道で、学校教育がこのタバコという薬物との対応に十六年間なんの進歩もなかったことを知らされただけでなく、「朝ズバ」はじめ多くのメディアの取り上げ方の底の浅さにとても悲しい気持ちがした。この学校は全国からの不登校、中退高校生の受け皿になっており、全校二百三十一名中七十数人が喫煙者であったというが、私はずいぶん低めに見積もった喫煙率と確信している。不登校、中退の最も大きい理由は「ニコチン依存症による学校生活不適応」だと考えているからで、未成年喫煙者は通常の学校生活がとても難しくなり、その最悪の結果が不登校、中退となってしまう。

 とても違和感があったのは、今やニコチン依存症が健康保険での治療が認められた疾患であり、パッチや飲み薬で容易に治療できることをほとんどのメディアが触れなかったことである。パッチによるニコチン代替療法は、子供や若い人たちには驚くほど少量で効果がある。にもかかわらず喫煙年数の少ない依存が浅く禁煙治療効果の大きい人びとを健康保険の適応から除外したのは、国家ビジネスとしては悩ましいところがあるからだろう。今や国のスタンスを変えずにこの大きな薬物依存の問題を取り繕うとするなら、真剣にこの薬物と向き合う教職者や子供たちを裏切り続けることになるのだ。

 未成年者に「さあ、冒険しよう。今まで知らなかった喜びを探し当ててみよう」と煽りたて、若い女性にまで「瞬間のキラメキを感じるひと時を」どうぞとタバコを差し出す国があって、それに引っかかった子供たちや建前を守らない教育者が悪いという構図はどうにも承服しかねる。

 この政府の誤った基本姿勢は、今のタバコ増税論議に如実に表れている。日本も批准している世界百六十一カ国のたばこ規制枠組み条約はタバコ消費を抑制する手段として強く価格引き上げを勧告している。これは現在吸っている大人たちを、がんをはじめとした多くの疾病から救うだけでなく、子供たちが買えない値段にすることで急速に若年齢化している喫煙開始の時期を大きく遅らせ、また喫煙者になるのを防ぐこともできるからである。このことはタバコ企業にとって非常に不都合なことから、反対運動が行なわれている。タバコ耕作者や小売業者を前面に押し出すとともに、族議員を使って増える税収を財源問題にすり替えることでいつものように結論の先延ばしを図っている。国民の健康増進と子供たちが喫煙者の仲間入りすることを防ぐ意味だけを考えても、とりあえず国際価格の六百円にする必要がある。この滅びゆく厄介なドラッグに対する重要な国家的施策として、良識ある決断を求めたい。

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